大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)359号 判決

原告

吉村勇治

ほか一名

被告

西尾辰也

ほか二名

主文

一  被告西尾辰也は、原告吉村勇治に対し、金二四二六万三四一二円及びこれに対する平成七年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告吉村勇治の被告西尾辰也に対するその余の請求を棄却する。

三  被告西尾辰也は、原告吉村政枝に対し、金二三三六万三四一二円及びこれに対する平成七年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告吉村政枝の被告西尾辰也に対するその余の請求を棄却する。

五  原告両名の被告畠中亮子及び被告畠中政輝に対する請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告西尾辰也の負担とし、その余は原告両名の負担とする。

七  この判決は、原告両名勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告吉村勇治に対し、連帯して金三三〇三万四五五〇円及びこれに対する平成七年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告吉村政枝に対し、連帯して金三一七三万四五五〇円及びこれに対する平成七年八月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告西尾が運転し吉村賢治(以下「賢治」という。)が同乗していた普通乗用自動車(以下「西尾車」という。)と、被告亮子が運転していた普通乗用自動車(以下「畠中車」という。)との間の交通事故について、賢治の相続人である原告両名が、被告西尾及び被告亮子に対しては民法七〇九条に基づいて、また、被告政輝に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づいて、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実及び括弧内の証拠等により容易に認められる

事実

1  本件事故

平成七年八月一七日午前三時二〇分ころ、岐阜県羽島郡岐南町八剣七丁目一五一番地先の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)において、国道二一号線を西方から東方に進行し本件交差点で南方に右折しようとした西尾車と、同国道対向車線を東方から西方に向かって進行し本件交差点を直進しようとした畠中車とが衝突した(争いがない。)。

2  被告西尾の責任

被告西尾には、本件交差点を右折進行するにあたり、対向車線を走行してくる車両の有無を確認し、その進行を妨害しないようにする注意義務があったのに、これを怠って漫然と右折し、その結果本件事故を発生させた過失がある(争いがない。)。

3  被告政輝の運行供用者性

被告政輝は、畠中車の所有者であり、自己のために同車を運行の用に供していた(甲一五号証、弁論の全趣旨)。

4  賢治の死亡と原告両名による相続

賢治(昭和四七年五月一三日生)は本件事故により平成七年八月一七日に死亡した(当時二三歳)。原告両名は、賢治の両親である(甲二号証の一、二、五号証)。

二  争点

1  被告亮子及び被告政輝について責任の有無

2  本件事故による原告両名の各損害額

3  好意同乗による減額

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲九号証、一〇号証、一一号証の一、二、一二号証、一五号証、一六号証、一九号証、二〇号証、二三号証、被告畠中亮子本人)によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

本件事故現場付近を東西に延びる国道二一号線は、本件交差点付近においては、東進する場合、幅員約三・四メートルの直進左折車線、幅員約二・六メートルの直進用車線が並行して設けられているが、これらとは別に幅員約四・三メートルの右折車線が設けられている。また、西進する場合も同様に、各幅員約三・三メートルの直進左折車線及び直進車線のほか、これらとは別に幅員約四・三メートルの右折車線が設けられている。本件交差点は、信号機により交通整理が行われているが、右直進左折及び直進の場合、対面する信号機の表示は、青色表示六二秒間、黄色表示三秒間、赤色表示五五秒間のサイクルに制御されており、右折の場合、対面する信号機は常に赤色を表示しているが、右直進左折等の場合に対面する信号機が赤色表示になると同時に七秒間右折矢印が表示されるように制御されている。

被告亮子は、法定の最高速度(六〇キロメートル毎時)を約一〇キロメートル毎時上回る約七〇キロメートル毎時の速度で畠中車を運転し、国道二一号線の西向き第二車線を走行していたところ、本件交差点の手前約四五メートル付近で対面する信号機が青色を表示していることを確認した。被告亮子がそのまま被告車を走行させたところ、右前方二〇・五メートルの地点に南進してくる西尾車を発見し、危険を感じて急制動をしたものの間に合わないで西尾車に衝突し、本件事故が発生した。

他方、被告西尾は、西尾車を運転し、国道二一号線の東向き第二車線を走行していたところ、本件交差点において、対面する信号機が赤色を表示していたため、先行車に続いて停止していた。被告西尾が前方左側の案内標識を見たところ、目的地である名古屋方面に向かうには本件交差点を右に向かうように表示されていたことから、被告西尾は同交差点を右折しようと考え、対面する信号機が青色を表示すると、約二五キロメートル毎時の速度で右折進行を始めた。被告西尾は、そのまま漫然と右折進行を続け、西尾車の進路左側から走行してくる畠中車に気付くや衝突回避の措置をとる間もなく同車に衝突し、本件事故が発生した。

本件交差点付近の国道二一号線は、高架用コンクリート柱やガードレールのため、両方向ともに対向車に対する見通しや右方の見通しが悪く、西尾車のように右折用の信号表示に従わないで本件交差点を右折した場合には、左側前方約二〇・五メートルに接近して初めて、対向する第二車線を走行してくる車両の存在に気付くことができるにすぎないし、逆に、被告畠中の側から西尾車の存在に気付くことができるのも、右距離程度に迫って初めて可能であるにすぎず、そこから本件事故の衝突地点までの距離は一六・五メートルにすぎない。

被告畠中は、本件交差点付近道路を本件事故以前にも走行したことがあり、本件交差点において右折専用の車線が設けられていることを知っていた。

2  右1の事実によれば、被告亮子については、右発見可能地点で西尾車を発見し直ちに急制動の措置を取っており、仮に法定の最高速度で走行していたとしても、わずか一六・五メートルの距離で停止することができないことは明らかで、本件事故の発生を回避することはできなかったのであるから、同被告について本件事故の発生についての過失を認めることはできない。被告亮子については、本件交差点のような特殊な形状の交差点において対面する信号機の青色表示を信頼して走行しているのであれば、車線の規制を守らないで右折をし、その上対向車線の安全を確認することなく漫然と右折を続ける西尾車のような車両の存在を予測してまで走行すべき注意義務は認められない。

したがって、被告亮子に本件事故についての責任はない。

3  右のとおり、本件事故については被告西尾の過失のみによるものであり、畠中車に構造上の欠陥又は機能の障害はない(被告畠中亮子本人)から、被告政輝についても本件事故についての責任はない。

二  争点2について

1  逸失利益

原告両名は、賢治の逸失利益として、賢治が勤務先の吉村産業(原告勇治)から平成七年四月から月額二五万円の給料を受取っていたこと、勤務先に年二回の賞与があり、平成六年一二月の賞与は勤務期間が短かったため一五万円ではあったが平成七年七月の賞与は二〇万円であり、平成七年一二月分については二〇万円が予想されることから、年収三四〇万円を基礎として、生活費控除率五〇パーセント、就労可能年数四四年間(訴状には「四五年」と記載されているが、「四四年」の誤記と解されるし、賢治の死亡時の年齢によれば四四年が相当である。)に対応する新ホフマン係数二二・九二三を乗じて算出した三八九六万九一〇〇円を請求するが、証拠(甲三号証、四号証、一七号証、二四号証の一、二、二七号証の一、二、二八号証の一、二)によりこれを認めることができる。

2  慰藉料

原告両名は、賢治の死亡に対する慰謝料として二二〇〇万円を請求するが、賢治の年齢、生活状況、本件事故の態様等本件に現れた一切の事情を考慮すると、その額としては二〇〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用等

原告勇治は、賢治の葬儀費用等として一三〇万円を請求し、証拠(甲二五号証の一、二、二六号証の一、二、原告吉村勇治本人)によれば、原告勇治が葬儀費用、仏壇・仏具購入費用としてこれを上回る支出をした事実は認められるが、賢治の年齢等を考慮すると、一二〇万円を本件事故による損害として相当と認めることができる。

三  争点3について

1  前掲の各証拠のほか、証拠(甲一七号証、一八号証)によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

賢治と被告西尾は春日井西高等学校の同級生であり、高校卒業後も友人として交友を続けていた。賢治は平成三年五月二七日に普通第一種の運転免許を取得しているが、被告西尾は平成六年三月一五日に同免許を取得し、車の運転経験は本件事故当時約一年二か月であった。

本件事故の前日(平成七年八月一六日)午後一〇時ころ、被告西尾は、愛知県春日井市内のゲームセンターで遊んでいたところ賢治に会い、二人で近くのファミリーレストランに行ったが、そこで賢治からの誘いを受け、賢治が被告西尾にドライブコースを教える話がまとまり、賢治の車を自宅に置いた上で、賢治の案内、被告西尾の運転で、西尾車に乗ってドライブをすることになった。二人で岐阜県揖斐郡内にある池田山山頂までドライブをした後帰途についたが、国道二一号線に西尾車が入ると、賢治は眠ってしまい、地理不案内な被告西尾が一人帰路を探しながら運転を続け、初めて通る本件交差点で本件事故が発生した。その際、被告西尾、賢治のいずれもシートベルトをしていなかった。

2  右のような賢治については、損害の公平な分担、信義則等の観点から、その損害を算定するにあたり過失相殺の規定を類推適用し、その損害額を減額するのが相当であり、本件の場合前記損害額から二五パーセントの減額をするのが相当である。

以上によれば、被告西尾が賠償すべき原告勇治の損害は二三〇一万三四一二円、原告政枝の損害は二二一一万三四一二円となる。

四  原告勇治は本件訴訟追行についての弁護士費用として一二五万円を、原告政枝も同費用として一二五万円をそれぞれ請求するが、以上によれば右金額はいずれも相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 榊原信次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例